2015年5月23日土曜日

「印象派を発明する:ポール・デュラン=リュエルと近代美術市場」展

(すいません。この投稿は長いです。とても興味があることなので
長くなりました。 )

 ベニスからの帰路、ロンドンに立ち寄ったのはナショナル・ギャラリーでの
この展覧会を見たかったから。

ロンドンは天気に恵まれたせいもあり、気持ちがよかった。
仲のいい友人が自宅での夕食に招いてくれ、地下鉄を降りて郊外の住宅街の
マーケットでワインを買って、 彼女の家まで歩いて行くのも楽しかった。

翌日朝10時(日時指定の切符をインターネットで購入していた)に美術館へ
行くと、開館前だけれど、30人くらいの人が並んで待っていた。展覧会の
中は比較的混んでいたが、絵を見るのに邪魔になるほど大勢の人ではない。
1時間あたりの入場人数をコントロールしているのだろう。

Inventing Impressionismというタイトルをどう訳すべきか迷ってしまう。
Inventionは発明とか考案という意味だけれど、「印象派を発明する」
というのはおかしいので、「印象派を作り上げる」というようなタイトルが
相応しいのかもしれない。

ポール・デュラン=リュエル(1831−1922) はパリの画商。
ルノワールが書いたデュラン=リュエル (パブリック・ドメイン)
現在印象派と呼ばれているグループの画家たちの作品と方向性に絵の将来を見て、
彼らの作品を大量に買うことでサポートし、展覧会を開き、外国でこれらの
作品を プロモートした。デュラン=リュエルがいなければ、印象派はこれだけ
の大きな流れにならなかった、というのがこの展覧会の主張。

ロンドンのナショナル・ギャラリーでこの展覧会が開催されるのは、
デュラン=リュエルが最初にモネやピサロと出会ったのがロンドンだった
からだ。彼等は普仏戦争から逃れて、ロンドンで暮らしていた。
(実際モネにはロンドンを描いた作品も多いが、ロンドンへは
何回か行ったようだ)そして、デュラン=リュエルはこのふたりの画家の
作品を徹底的に買い支えた。

デュラン=リュエルは、モネ、ピサロ、ルノワール、ドガといった画家の
作品、合計約12000枚を売った。いわゆる「印象派展」の第二回は彼の
画廊で行われているし、彼は大量に買った作品を、イギリス、アメリカ、
ドイツ、オランダ、ロシアに持って行って展覧会をして売った。これが
印象派作品がフランス以外に多くあり、したがって現在に至るまで
世界中で人気がある最大の理由だろう。

 アメリカでは特に人気があったので、彼はニューヨークに画廊を開き、
息子たちに経営させている。展示されている作品はモネが群を抜いて点数が
逐い。ルノワーフも主要な作品があり、あとはドガ、マネ、ピサロ、シスレー
 などなど。

もうひとつ、カタログには個展というものが行われるようになったのは
この時期だと書いてある..個展自体は彼がはじめて行ったわけではないようで、
(このあたり、もう少し丁寧にカタログを読むとわかると思うのだが)
各画家の作品を数百点単位で買っていたデュラン=リュエルは、作品を
売るための個展を開催することができた。それがこの展覧会のタイトル
にも登場する”近代美術市場”というものの始まりなのだろう。

ルノワールがヂュラン=リュエルの家族を描いた作品もおもしろいが、
展示の白眉は、やはりモネのポプラ並木シリーズだろう。
ここだけ部屋の雰囲気が違う。

モネは1891年の夏にジヴェルニーの自宅の側の並木を24枚描いた。
シリーズ好きの私としてはたまらない作品。(笑)
今回はそののうち5枚が展示されている。
オルセー、フィラデルフィア美術館(なんと2枚)そして、
国立西洋美術館(松方コレクション)と
イセ文化財団(伊勢彦信氏のコレクション)と
所属もなかなかおもしろいのである。
ポプラ並木、フィラデルフィア美術館蔵
これもフィラデルフィア美術館






ともかく、色々と考えさせられる展覧会だった。

画商とその果たした役割を中心にした展覧会をロンドンのナショナル・
ギャラリーのような美術館が組むというのはとても興味深い。

『ハウス・オブ・ヤマナカ』にも書いたが、これまで美術史は画商の
存在と役割を無視してきた。 ところが、この展覧会、そして
この春のニューヨークでのエルズワース・コレクション競売など、
最近美術商に話題が集まるようになってきている。

現在メトロポリタンで行われている日本美術セクションの展覧会
「日本美術を発見する:アメリカ人コレクターとメトロポリタン美術館」
でも、山中商会に一部屋が割かれ、アメリカ人コレクターと
メトロポリタン美術館学芸員 の背後にいた山中商会に焦点をあてている。

というわけで、何かが変わってきたのかもしれない。

「印象派の発明」展は、うれしいことに6月24日から9月13日まで
フィラデルフィア美術館へ巡回してくる。
もちろん、もう一度見に行くつもりだ。

おまけはフィラデルフィア美術館の作った「予告編」です。